鉱物

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いろいろな鉱物

鉱物(こうぶつ、: mineralミネラル)とは、一般的に、地質学的作用により形成される、天然に産する一定の化学組成を有した無機結晶物質のことを指す。一部例外があるが(炭化水素であるカルパチア石など)、鉱物として記載されるためには、人工結晶や活動中の生物に含まれるものは厳密に排除される。[要検証]また鉱物は、固体でなければならない[注釈 1]

概要[編集]

生きた生物に含まれる、例えば貝殻方解石霰石ヒトに多く含まれるハイドロキシアパタイトなどの鉱物は生体鉱物として区別する必要がある。[要検証]また非晶質物質でも鉱物と呼ばれる例外もある(オパール)。

広義には、動物以外をさし、石油地下水までも鉱物に含める場合がある。しかし、鉱物学の文献等では、「天然に産出する無機質で一定の化学組成と結晶構造を有する固体物質」のことを鉱物と定義する場合が多い。

鉱物種[編集]

鉱物の種は結晶構造と化学組成によって特徴付けられている。化学組成が同じであっても結晶構造が異なれば違う鉱物(この関係を多形と呼ぶ)となる。たとえば、石墨(グラファイト)とダイヤモンドの化学組成は共に純粋な炭素(C)であるが、結晶構造が異なるため別種の鉱物であり、全く異なった物性を有する。また、結晶構造が同じでも化学組成が異なれば違う鉱物(この関係を多型(もしくは同質異像)と呼ぶ)となる。方解石(CaCO3)と菱苦土石(MgCO3)は結晶構造はほぼ同一だが、化学組成が異なるため別種の鉱物である。

多形(同質異像)[編集]

固溶体[編集]

結晶構造については、一定量までならば組成外の元素を含んでも維持できるため(固溶体)、同種の鉱物であっても化学組成には一定の幅がある。このとき固溶することのできる元素の量は、元素の種類と結晶構造に依存する。結晶構造が極めて近い鉱物同士の場合、自由な割合で固溶できる場合があり(連続固溶)、この場合にはちょうど 1:1 になる組成を境にしてそれぞれ独立の鉱物として命名する[2]

新鉱物・命名[編集]

天然で新たに発見された新鉱物は国際鉱物学連合IMA)の「新鉱物および鉱物名に関する委員会(CNMMN)」に申請し、委員の過半数が参加した投票において、2/3以上の賛成を得ることにより承認される[3]

新鉱物の名称は、通常、その鉱物の産出地、発見者(申請者自身が発見者である場合を除く)、著名な鉱物学者、性質に基づいて命名される。名称はラテン文字で表記する(ラテン文字で表記されない言語の名称の場合は、ラテン文字に翻字する)こととされており、新鉱物の承認の投票に参加した委員から過半数の賛成を得ることにより承認される[3]。名称の語尾には「-ite」か「-lite」をつけることが多い。

鉱物の和名について、日本鉱物学会(2007年に日本岩石鉱物鉱床学会と統合して日本鉱物科学会となった)では1955年以降、「石」と「鉱」以外は片仮名で書くことを取り決めている。その際、「石」は非金属光沢を持つ鉱物、「鉱」は金属光沢を持つ鉱物に用いる。しかし、片仮名では意味が取りにくいため、実際には漢字で書かれることが多い。

岩石、鉱石との違い[編集]

  • 鉱物 - その組成がほぼ単一なもので、なおかつ単結晶であるもの。組成が単一であっても複数の結晶を含む場合は岩石として扱われる。大理石方解石の結晶により構成されるが、その組成は単結晶ではなく複数の結晶の集合体であるため鉱物ではなく岩石である。
  • 岩石 - 組成が非均質であり、鉱物の集合によって構成されているもの。花崗岩石英長石雲母などの鉱物の集合からなっているため、鉱物ではなく岩石である。
  • 鉱石 - 鉱物や岩石を資源として扱う場合に用いられる通称である。鉄鉱石硫化鉄鉱ろう石石灰石など。

性質[編集]

鉱物の性質は次のような項目で表現される。

光学的性質
  • - 比較的、微量成分の影響を受けやすい。また、紫外線などにより変色する場合がある。
  • 条痕色 - 硬く、表面の粗い板に擦り付けたときにできる線を条痕といい、この色を条痕色という。条痕色は鉱物を粉末にしたときの色と等しい。条痕色は必ずしも鉱物結晶の色と同じではない。
  • 光沢 - 結晶表面の質感。結晶表面の屈折率、反射率の影響でこの質感が決まる。光沢の表現は、金属光沢、ダイヤモンド光沢、ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、真珠光沢、絹光沢など。
  • 蛍光 - 熱や紫外線により蛍光を示すことがある。
  • 屈折率 - 一般には密度の大きい物質ほど大きな屈折率を示す。単屈折複屈折がある。造岩鉱物では、しばしば資料の薄片を偏光顕微鏡にかけ複屈折の大きさにより鉱物種を判断する。
化学的性質
物理的性質
  • 結晶系 - 晶系とも言う。結晶がどのような対称性を持っているかを表す。結晶格子を参照。
  • 硬度 - 鉱物の硬さを表すときにはモース硬度が用いられる。硬度はゆっくりとこすり合わせたときの硬さであり、物理的な衝撃力に対する堅さではない。1–10の数字で表す。ビッカース硬度を用いる場合もある。
  • 比重 - 水の重さを1としたときの重さ。
  • 劈開 - 結晶構造によっては特定方向に割れやすい性質があり、これを劈開面という。鉱物によっては劈開を持たないものもある。劈開の表現は、きわめて完全、完全、不完全、きわめて明瞭、明瞭、不明瞭、無し。
  • 断口 - 割れ口のことで、鉱物種によっては特徴的な割れ口を示すものがある。貝殻状断口、亜貝殻状断口など。

化学組成による分類[編集]

元素鉱物以外の分類は、含まれる負イオンの種類によって行なわれる。また、リン酸塩鉱物とバナジン酸塩鉱物のように負イオンの性質および形状が類似するものは、分類方法によっては一つのグループとされる場合がある。

元素鉱物
単独の元素からなる鉱物。自然金(Au)、自然銀(Ag)、自然銅(Cu)、自然蒼鉛(Bi)、自然テルル(Te)、自然硫黄(S)、石墨ダイヤモンド(C)など。自然真鍮(CuZn)のように特有の結晶構造をもつ合金についてもここに分類される。ただし合金であってもイリジウム-オスミウムのように単純に固溶体を形成しているだけの場合は鉱物種とはならない。
硫化鉱物
金属元素と硫黄とが結合している鉱物。熱水鉱床などでよく見られる。黄鉄鉱(FeS2)、黄銅鉱(CuFeS2)、方鉛鉱(PbS)など。
酸化鉱物
金属元素と酸素とが結合している鉱物。石英(SiO2)、赤鉄鉱(Fe2O3)、磁鉄鉱(Fe2+Fe3+2O4)、チタン鉄鉱(FeTiO3)、スピネル(MgAl2O4)、コランダム(Al2O3)など。
ハロゲン化鉱物
金属元素とハロゲン元素とが結合している鉱物。岩塩(NaCl)、蛍石(CaF2)など。
炭酸塩鉱物
炭酸塩からなる鉱物。方解石(CaCO3)、苦灰石(CaMg(CO3)2)など。
ホウ酸塩鉱物
ホウ酸塩からなる鉱物。硼砂(Na2B4O5(OH)4・8H2O)など。
硫酸塩鉱物
硫酸塩からなる鉱物。明礬石(KAl3(SO4)2(OH)6)、石膏(CaSO4・2H2O)、天青石(SrSO4)、重晶石(BaSO4)など。
リン酸塩鉱物
リン酸塩からなる鉱物。燐灰石(Ca5(PO4)3(F,Cl,OH))など。
タングステン酸塩鉱物
タングステン酸塩からなる鉱物。灰重石(CaWO4)など。
ケイ酸塩鉱物
ケイ酸塩からなる鉱物。カンラン石輝石角閃石雲母長石沸石など。ケイ酸イオンの構造により、さらに細分化される。
有機鉱物
有機物からなる鉱物。他の鉱物は無機物からなるので対をなし、無機鉱物と同じく一応分類は可能であるが、40種ほどしか見つかっておらず、普通は「有機鉱物」でひとまとめにされている。
  • を成分として含む鉱物を含水鉱物としてまとめることもある(雲母、角閃石など)。
  • 炭酸塩鉱物、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、燐酸塩鉱物、ケイ酸塩鉱物を酸素酸塩鉱物としてまとめてることもある。
  • 無機鉱物有機鉱物に大別されることもある。

対称性による分類[編集]

鉱物を結晶形で分類する場合、漠然とした外見ではなく、対称性が重視される。これは、結晶の対称性には結晶構造の影響が特に強く現れ、原子の配列が反映されるものだからである。鉱物の結晶が取ることのできる対称性のパターンはいくつかに限られており、これを晶系と呼ぶ。

結晶がどの晶系に属するかによって、巨視的な外形(結晶形)や割れ方(劈開)、電気的・光学的な性質が大まかに決定される。逆に、鉱物がどの晶系に属するかを決定するには、結晶外形(とくに面角)や他の物理的性質を総合的に判断して決定する。ただし、現代ではX線回折のみによりほぼ決定することができる。

通常、七晶系で表現されることが多いが、七晶系のうち、三方晶系と六方晶系は、行列により座標の変換を行うと等価となるため、六晶系とする場合もある。

また、非常に少数であるが、結晶構造の存在しない非晶質の鉱物がある。

等軸晶系
柘榴石スピネル蛍石磁鉄鉱黄鉄鉱ダイヤモンドなど。
正方晶系
ジルコンベスブ石など。
六方晶系(三方晶系を含む)
石英方解石燐灰石コランダム石墨など。
斜方晶系
カンラン石斜方輝石など。
単斜晶系
正長石普通輝石普通角閃石黒雲母など。
三斜晶系
斜長石など。
非晶質
オパールネオトス石芋子石石川石など。

結晶構造による分類[編集]

結晶構造に着目して、同じ結晶構造をもつ鉱物をまとめて一つのグループとする場合がある。とくに、化学組成と晶系だけでは特徴を掴みにくい珪酸塩鉱物などでは一般的に使われる分類である。

原子の配列である結晶構造はあまりに微細であるため直接知る方法はなく、X線回折やその他結晶の物理的性質などによって間接的に推定する。化学組成や晶系から大まかに推定できる場合もある。ただし、同じ結晶構造だからといって必ずしも同じ晶系に属するわけではないことに注意が必要。例えば長石グループに属する鉱物は、単斜・斜方・三斜と3つの晶系にまたがる。

鉱物グループの例

外形による分類[編集]

結晶が自由に成長できる環境で成長した場合を自形という。これに対して、他の鉱物に邪魔をされて自由に成長できなかった場合を他形という。また、自形結晶の外形だけを残して、成分が分解・置換してしまったり多形関係の別の鉱物になってしまう場合があり、このような場合を仮晶と呼ぶ。

鉱物の外形(結晶形)は、鉱物種を判断する上で非常に重要な要素であり、結晶を一見しただけで鉱物種を判断できる場合もある。ある鉱物種が取りやすい形をその鉱物種の晶癖という。

しかし、結晶の面の大きさや稜の長さなどは比較的変わりやすいことが知られているため、決定的ではない。一方、結晶面同士の成す角度(面角)は、結晶面ごとに常に一定であることが知られており、鉱物の鑑定においてはより重要な性質である。

産出状態による分類[編集]

鉱物を産出状態や用途によってまとめることがある。

マグマ熱水から最初にできた鉱物を一次鉱物(初生鉱物、: primary mineral)、既存の鉱物が水や空気と反応して別種に変わったものを二次鉱物: secondary mineral)ということもある。ただし、その境界はあいまいである。

変わった鉱物[編集]

博物学と鉱物[編集]

鉱物学博物学より発生しており、鉱物を自然物の分類として使ったのは博物学者のリンネである。リンネは自然界を動物、植物、鉱物の三界であるとした。当時の博物学は動物、植物が中心であったため、動物でもなく植物でもないもの、つまり、自然界の無機物は全て鉱物として扱われた。この影響が強く、鉱物の分類が確立された今でも「鉱物=自然界にある無生物」という意味を残している。

また、かつて博物学は上流階級の趣味の一つであり、現在の鉱物採集や蒐集といった趣味もこの当時から発生している。現在でも欧米では鉱物や岩石、化石の採集、蒐集は高尚な趣味として認められている。日本でも、隔週刊で、鉱物の原石を添付するコレクション雑誌が発売されていた(2001年7月~2005年10月)[4]

鉱業法における定義[編集]

鉱業法第3条第1項では『この条以下において「鉱物」とは、金鉱、銀鉱、銅鉱、鉛鉱、そう鉛鉱、すず鉱、アンチモニー鉱、亜鉛鉱、鉄鉱、硫化鉄鉱、クローム鉄鉱、マンガン鉱、タングステン鉱、モリブデン鉱、ひ鉱、ニツケル鉱、コバルト鉱、ウラン鉱、トリウム鉱、りん鉱、黒鉛、石炭、亜炭、石油、アスフアルト、可燃性天然ガス、硫黄、石こう、重晶石、明ばん石、ほたる石、石綿、石灰石、ドロマイト、けい石、長石、ろう石、滑石、耐火粘土(ゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有するものに限る。以下同じ。)及び砂鉱(砂金、砂鉄、砂すずその他ちゆう積鉱床をなす金属鉱をいう。以下同じ。)をいう。』、第2項では『前項の鉱物の廃鉱又は鉱さいであつて、土地と附合しているものは、鉱物とみなす。』と定義されている[5]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ただし、自然水銀は例外として鉱物の1つとして扱われる[1]

出典[編集]

  1. ^ 興野・黒澤 2007, p. 69.
  2. ^ E.H. Nickel, "Solid solutions in mineral nomenclature", Canadian Mineralogist, Vol. 30, pp. 231-234, 1992. PDF
  3. ^ a b THE IMA COMMISSION ON NEW MINERALS AND MINERAL NAMES: PROCEDURES AND GUIDELINES ON MINERAL NOMENCLATURE, 1998
  4. ^ 隔週刊トレジャー・ストーン』(DeAGOSTINI)
  5. ^ 鉱業法 e-Gov法令検索

参考文献[編集]

  • 原田準平 『鉱物概論 第2版』 岩波書店〈岩波全書〉、1973年、ISBN 4-00-021191-9
  • 黒田吉益諏訪兼位 『偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版』 共立出版、1983年、ISBN 4-320-04578-5
  • 堀秀道 『楽しい鉱物学 - 基礎知識から鑑定まで』 草思社、1990年、ISBN 4-7942-0379-9
  • 松原聰 『フィールドベスト図鑑15 日本の鉱物』 学習研究社、2003年、ISBN 4-05-402013-5
  • 国立天文台編 『理科年表 平成20年』 丸善、2007年、ISBN 978-4-621-07902-7
  • 興野純・黒澤正紀 著「鉱物」、指田勝男・久田健一郎・角替敏昭・八木勇治・小室光世・興野純(編) 編『地球進化学』古今書院〈地球学シリーズ〉、2007年、69-86頁。ISBN 978-4-7722-5204-1 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]