家族葬

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家族葬(かぞくそう)とは、家族などの近親者だけで行い、近親者以外の儀礼的・社交辞令的な弔問客の参列を拒否する葬式のこと。家庭葬(かていそう)とも言う。

概要[編集]

密葬と似ているが同義語ではない。密葬の場合は、近親者だけで葬儀を行い火葬した後に、日を改めて本葬(骨葬・お別れ会など)を行う。密葬と本葬を合わせて一つの葬儀であり、本葬を行わず密葬だけを行うことは基本的にありえない。これに対して家族葬の場合は、近親者だけで葬儀を行い火葬するところまでは密葬と同じであるが、それだけで一つの葬儀として完結した形態であり、日を改めて本葬を行うことはない。また、直葬は「直接火葬」を略したもので、独立した葬儀を行わず火葬だけを行うことである。火葬場のキャパシティの関係から、参加者はごく少数の近親者に限られる。身寄りのない者の場合は葬儀社のスタッフ一人だけということもある。

  • 家族葬 : 葬儀場などで葬儀→火葬
  • 密葬 : 葬儀場などで葬儀→火葬→後日、ホールなどで本葬
  • 直葬 : 火葬のみ

家族葬は小規模な葬儀全般を指すものであり、葬儀の様式や宗教形態を規定するものではない。そのため、各宗教・宗派の聖職者による宗教儀礼も行われる。もちろん故人の希望により無宗教式で行われることもある。その場合は自由葬と呼ぶこともある。

メリット[編集]

  • 参列人数の確定や葬儀社による予算の変動が少なくて安心であり、日程などが自由に設定しやすい。
  • 近親者のみで行うため、弔問客に気を遣うことが少なく、落ち着いて故人とのお別れができる。
  • 例えば故人の死去時の状況が事故死や自殺または急死であったなど、遺族にとって感情的に複雑な事情が生じているケースにも対応しやすい。
  • 少人数で行うため、葬儀係員の人件費や葬儀場の設備費用が抑えられ、通夜振舞い・返礼品等の費用も低額になる。
  • 虚飾を排し心のこもった葬儀を行いたい遺族にとっては、ふさわしい葬儀の形態である。

なお家族葬の費用については、基本的には通常の葬儀で使われるものと同様の祭壇等が使われるため、必ずしも劇的に安くなるとはいえない。

デメリット[編集]

  • 弔問客(主に知人や近隣住民)に極力知られないようにするため、自宅や集会所などでの葬儀は基本的に出来ない。このため、葬儀社や公営の霊安室・式場が使われるが、そのための費用がかかる。葬儀社によっては、冷蔵の霊安室を完備しているのにドライアイス代金を請求する悪徳業者も存在する。
  • そのため、故人の遺体とは通夜までに気軽に会えないことがある。
  • 弔問客から、葬儀後に苦言を呈されるなどの不義理が生じる場合がある。また、故人との交友が深かった場合は「最後にもう一目だけ顔を見たかった」という人も少なくない。もちろん火葬は終えたあとなので、それもできなくなってしまう。
  • 弔問客が後日自宅にバラバラに弔問に訪れることになり、そのための対応に苦慮することがある。
  • 前述のように、家族葬であっても葬儀費用は一般葬に比べほとんど変わらないのに対し、一般葬で遺族の収入となる香典・弔慰金がほとんどなく、葬儀費用と相殺できないため、一般葬よりも費用負担が増える場合もある。

弊害[編集]

一般的に「家族葬なら○○万円」と従来の葬儀よりも安価である事をメリットとして併記されることが多く、今まで葬儀費用に疑問を抱いていたものの、臨終から葬儀までの日数が限られていることや、「故人の為を思えばこそ」という考え、心理的に不安定な状態であるなどの理由により、値切りや契約の見直しなどの対応が難しい一般消費者に広く認知された。しかし、家族葬の内容を理解できていない遺族が、通常の一般葬が安くなったものであると誤解している場合もあり、葬儀社とのトラブルになることもあった。

また、家族葬は弔問客を招かないために葬儀後に報告をするのが望ましいが、通例どおりに臨終後まもなく関係者に葬儀をする旨を伝えたり、「葬儀は家族葬で行います」という本末転倒な報告が行われることもままある。著名人の訃報で「葬儀は近親者のみで行う」と報道されることがあるが、これは「近親者以外は参列しないでほしい」という遺族からの意思表示であるにもかかわらず、家族葬に対する誤解や人情から、弔問客が小人数用の葬儀式場に押し寄せ、無用な混雑や葬儀時間の増加を引き起こすなどのトラブルも少なくない。

業界の対応や今後[編集]

家族葬の名称のみが一人歩きしたために、葬儀の打ち合わせの際に改めて家族葬と一般葬の違いを説明しなければならず、葬儀業界では各葬儀社による生前予約・説明会などに加え「家族葬説明会」などが開かれ、来場者に対し「家族葬は密葬とほぼ同じである」や「家族葬にはある程度のリスクが伴う」等の知識を浸透させるのと同時に、「あなたのご家庭の事情では、本当に家族葬が可能か」等のようなレクチャーやディスカッションを行うなどの対応を行っている。また一部には、予定以上の弔問客が来場した際に追加料金を徴収することを契約文中に入れる葬儀業者が現れるなど、名実ともに家族葬が認知されるまでにはまだしばらく時間がかかるのが現状である。

参考文献[編集]

  • 『週刊ポスト』2013.5.17号「本当に安くて恥をかかない『葬式と墓』」

関連項目[編集]