メシマコブ

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メシマコブ
メシマコブ(Phellinus linteus)
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
: ハラタケ綱 Agaricomycetes
: タバコウロコタケ目 Hymenochaetales
: タバコウロコタケ科 Hymenochaetaceae
: キコブタケ属 Phellinus
: メシマコブ P. linteus
学名
Phellinus linteus
和名
メシマコブ
英名
willow bracket
fire sponge

メシマコブ(Phellinus linteus) は、タバコウロコタケ科のキノコである。桑の木などに寄生して栄養を奪いながら扇状に育つ。子実体の傘の直径が30cmになるまでに20-30年はかかるという希少なキノコで、外見はサルノコシカケによく似ている。温度、湿度、日当たりなどの環境が整わないと菌糸が育たず、栽培も培養も難しいことから幻のキノコと呼ばれてきた。中国では桑黄と呼ばれ漢方薬としても珍重されてきた。ただし、桑黄とメシマコブは必ずしも同一でないことが遺伝子解析で明らかになっている。

薬用効果[編集]

キノコ類に抗がん作用や免疫増強作用があることは一般的によく知られている。シイタケ由来のレンチナン、カワラタケ由来のクレスチン、スエヒロタケ由来のシゾフィランなど抗がん剤や化学療法における副作用の軽減に用いられることが多い。メシマコブは1968年に国立がんセンターの千原呉郎、池川哲郎らの研究により、ガン細胞の増殖を最も抑制することが発表され注目されることになった。メシマコブの抗腫瘍効果(腫瘍阻止率)は96.7%で最も高かった[1]

韓国では国家プロジェクトにより韓国新薬がメシマコブの菌糸体培養に成功した。その中でも特に抗がん作用に優れた菌株PL2・PL5のメシマコブ菌糸体熱水抽出物[2]から、「メシマ」[3]という名の製剤が開発され、1993年に抗がん免疫増強剤として医薬品の認可を受け販売されている[4][5]。主成分は多糖類(β-グルカンやα-グルカンなどのグルコース)と酸性ヘテロマンナンタンパク複合体である。メシマは他のキノコ類と比較してマンノースやガラクトースが多いのが特徴である。

日本では1988年以降、西条中央病院(東広島市)の山名征三医師によって胃癌肝臓癌肺がん直腸がん子宮がんなどの治験例が「薬学雑誌」や「診療と新薬」などの医薬誌で報告されている。1999年、2000年には日本代替医療学会(現:日本補完代替医療学会)[6]において太田富久らによって免疫増強作用や抗腫瘍活性が報告された。2004年には日本放射線学会[7]関西地方会において関西医科大学放射線科の小島博之医師、谷川昇医師、澤田敏医師、西宮協立脳神経外科病院の横田芳郎らによって多発性肺移転を伴う肝細胞癌の治験例が学会報告され、2006年「Radiation Medicine」に論文発表された。

海外では2008年に乳がんの成長阻害や浸潤抑制作用が「British Journal of Cancer」で報告されている[8]。また2020年には肝細胞癌における放射線治療と「メシマ」[3]の併用効果が論文発表されている[9]
2022年には韓国新薬の「メシマ」[3]を用いたヒト臨床試験が実施された。二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験の結果、NK細胞活性はプラセボ群と比較してメシマ投与群で有意に増加した。肝機能および腎機能における有害な事象は観察されず、経口摂取しても安全でかつ免疫力を向上させる可能性が示唆された[10][11]

日本では医薬品として認可されておらず、補完代替療法抗がん剤の副作用軽減、QOL(生活の質)を高める目的で[9][12][8]、多くの医療機関などで健康補助食品として利用されている。

また、ペットの高齢化に伴い犬や猫などに対する臨床研究も学会で報告がある[13][14][15]

脚注[編集]

  1. ^ 千原呉郎「抗癌剤の現状と将来.特に生薬薬理の観点から」『藥學雜誌』第108巻第3号、日本薬学会、1988年、171-186頁、doi:10.1248/yakushi1947.108.3_171ISSN 0031-6903NAID 110003648628 
  2. ^ メシマコブ菌糸体熱水抽出物
  3. ^ a b c メシマ®
  4. ^ Immunoregulatory Effect of Mesima (R) as an Immunotherapeutic Agent in Stage III Gastric Cancer Patients after Radical Gastrectomy. J Korean Cancer Assoc.1997 Jun;29(3):383-390
  5. ^ The Effects of Mesima-Ex, the Immunomodulator in Curatively Resected Gastric Cancer J Korean Cancer Assoc. 1997 Oct;29(5):800-806
  6. ^ 日本補完代替医療学会
  7. ^ 日本放射線学会
  8. ^ a b D Sliva, A Jedinak, J Kawasaki, K Harvey, V Slivova,. "Phellinus linteus suppresses growth, angiogenesis and invasive behaviour of breast cancer cells through the inhibition of AKT signalling". British Journal of Cancer (2008) 98, 1348-1356, PMID 18362935
  9. ^ a b International Journal of Molecular Sciences.Vol.21(3);2020 FebruaryThe Biofunctional Effects of Mesima as a Radiosensitizer for Hepatocellular Carcinoma
  10. ^ Yong Ho Ku, KMD, PhD, Jae Hui Kang, KMD, PhD, Hyun Lee, KMD, PhD,."Effects of Phellinus linteus extract on immunity improvement: A CONSORT-randomized, double-blinded, placebo-controlled trial". Medicine (Baltimore).2022 Aug 26; 101(34): e30226, PMID 36042633
  11. ^ Ku, Yong Ho; Kang, Jae Hui (2022). “Efficacy of Phellinus linteus extract on immunity enhancement: A CONSORT-randomized, double-blind, placebo-controlled pilot trial”. Medicine (Wolters Kluwer Health) 101 (40). doi:10.1097/MD.0000000000030829. PMID 36221338. https://doi.org/10.1097/MD.0000000000030829. 
  12. ^ Molecules Vol.24(10);2019 MayThe Bioactivities and Pharmacological Applications of Phellinus linteus
  13. ^ 花田道子, 宮野のり子「生涯を通して栄養療法を主とした統合医療を用いたボクサー犬」『ペット栄養学会誌』第15巻Suppl、日本ペット栄養学会、2012年、Suppl_32-Suppl_33、doi:10.11266/jpan.15.Suppl_32ISSN 1344-3763NAID 130004565677 
  14. ^ 友森玲子, 花田道子, 宮野のり子「肝臓がん罹患保護犬への栄養管理」『ペット栄養学会誌』第15巻Suppl、日本ペット栄養学会、2012年、Suppl_30-Suppl_31、doi:10.11266/jpan.15.Suppl_30ISSN 1344-3763NAID 130004565676 
  15. ^ 腫瘍性疾患犬の免疫応答に対する核酸ならびにメシマコブの効果に関する研究|動物臨床医学会(2005)

外部リンク[編集]