タイ料理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
魚介類のゲーン・キヨウ・ワーン(グリーンカレー)

タイ料理(タイりょうり)(タイ語: อาหารไทย アーハーンタイ)は、東南アジアタイ料理である。中国カンボジアマレーシアラオスミャンマーなどの周辺諸国の料理の影響を受けており、香辛料香味野菜ハーブを多用し、辛味、酸味、甘味などを多彩に組み合わせた味付けに特徴がある。

特徴[編集]

食材[編集]

野菜と香草。チェンマイのタニン市場にて。

主食はで、インディカ種の一種であるタイ米が広く食べられている。北部や北東部では、長粒種のもち米も常食される。このため、献立には米に合うおかず(ガップ・カオ(กับข้าว)=「米と(食べるもの)」)が複数用意される。中部タイの基本的な食事では、白米にスープ、野菜炒め、肉料理など、数品のおかずが添えられるのが一般的である。これに対し、類は軽食という位置づけがなされる。

肉類は豚肉鶏肉が中心であり、牛肉の消費量は少ない。アヒル肉やスイギュウ肉も食べられる。は海岸部以外ではティラピアライギョナマズ類などの川魚が中心で、主に揚げ物、焼き物、スープ、カレーに使用される。エビ川エビ)、カニイカ二枚貝もよく用いられる食材である。

野菜ではナスヨウサイ(空心菜)、カボチャカイランツルレイシキンサイオランダガラシエシャロットなどが頻繁に使われ、ピーナッツカシューナッツもよく添えられる。ネジレフサマメノキสะตอ サトー)、シカクマメถั่วพู トゥアプルー)、ジュウロクササゲถั่วฝักยาว)も食べられる。

果物の種類は非常に豊富で、スイカバナナドリアンマンゴスチンミカンパイナップルランブータンパパイヤザボン(ブンタン)、リュウガンマンゴーレイシパラミツレンブグアバタマリンドなどさまざまである。これらは生のままで食べるだけでなく、ジュースにして飲むことも多い。また、熟す前の青いパパイヤやパラミツは野菜として扱われ、前者はソムタム、後者はタム・カヌーンというサラダやゲーンの具として利用される。

調味料[編集]

プリッキーヌー

ベトナム料理カンボジア料理などと同様に、味付けの基本は魚醤である。タイの魚醤はナンプラーน้ำปลา)と呼ばれ、アンチョビなどのを塩漬けし、発酵によって魚のタンパク質から生じるアミノ酸を豊富に含む、醤油に似た液状の調味料である。プラーラーปลาร้า)は魚肉の固形分を含む不透明の魚醤で、イーサーンではソムタムの味付けなどに用いられる。ナンプラーほどではないが、カピกะปิ)と呼ばれる、インドネシアトラシに似た固形のシュリンプペースト(蝦醤)も用いられる。また、プリッキーヌーพริกขี้หนู)と呼ばれる小粒の唐辛子が頻繁に使用される。タイ料理に辛い料理が多いのは、このためである。ゲーン(いわゆるタイカレーを含む汁物)にはしばしばココナッツミルクが用いられ、料理にコクをあたえている。パクチーレモングラスカミメボウキなどの香草コブミカンの葉、ニンニク、エシャロット、ウコンขมิ้น カミン)、バンウコンข่า カー)やオオバンガジュツกระชาย クラチャーイ)の根茎、コリアンダーの根などをすりつぶしたペースト(クルーン・ゲーン)をゲーンや炒め物の味付けに用いる。炒め物にはライムมะนาว マナーオ)が添えられることが多く、各自で搾って好みの酸味をつける。

中華料理の調味料は炒め物や麺料理などに用いられる。ソイソースであるシーユーは用途によってシーユー・ダム(濃口醤油)とシーユー・カーオ(淡口醤油)などを使い分ける。ダイズを発酵させた薄黄色のタオチャオ(黄醤)やオイスターソースซอสหอยนางรม ソス・ホーイナンロム)も用いられる。

タイ料理では、ひとつの料理に辛味、酸味、甘味などが混ざり合い、複雑な味覚を醸し出している状態が美味とされている。このため食堂には砂糖(น้ำตาล ナームターン)、ナンプラー(น้ำปลา)、唐辛子の酢漬け(พริกน้ำส้ม プリッナームソム)、粉唐辛子(พริกป่น プリックポン)を入れた容器のセット(เครื่องปรุง クルアンプルン)が必ず置かれ、各自が供された料理を好みの味付けに整えてから食べるのが普通である。

地域性[編集]

イーサーンタイ北部はもともとタイ中部とは異なる文化圏に属するため、もち米を主食としたり、昆虫食の伝統があり、異なる食材を用いるなど、料理にも特色が多く、ラオス料理との共通点が多い。北部では、ビルマ料理の影響も見られる。ココヤシの栽培には適さない気候のため、伝統料理にはココナッツミルクをあまり使用しない。タイ北部やイーサーンで慶事や仏事の際に供される格式の高い料理をカントーク料理という。

古くからアラブ人ペルシア人商人が寄港した南部には、マレー料理および間接的にアラブ料理ペルシア料理の影響を受けたゲーン・マッサマン(ムスリム風カレー)やビリヤニの一種とされるカーオ・モクなど独特の料理がある。最南部に多いムスリムは、他の地域のムスリム同様に豚肉を禁忌とし、ギーヨーグルトを料理に用いる。

他国の料理の影響[編集]

中華料理[編集]

カオマンガイ

近代に入り、多数のタイ華僑の出身地であった広東省の文化が流入した。潮州料理を中心とする、さまざまな中華料理が流入した。いくつかのものは現地化してタイ料理の定番メニューになっている。たとえばライスヌードルの一種クァイティオ(ก๋วยเตี๋ยว)は潮州の「粿条」(コエティオウ)、カオマンガイ海南省の「文昌鶏」(ブンチアンコイ)などである。また、朝食に中華を食べる習慣もタイの食生活に広く浸透しており、ジョーク(โจ๊ก広東語)と呼ばれる雑炊に似た広東風の粥を朝食に出す料理店や屋台が多い。鹹蛋や中華風の漬物を調味料として用いることも中華料理の影響である。

ビルマ料理[編集]

ビルマ料理の影響は、タイ北部を中心に見られる。麺料理カオソーイข้าวซอย)が代表的。この地方にもラペソーのような食べ茶の習慣があったが、現在ではハイゴショウ英語版の葉で刻みショウガココナッツ、プリッキーヌーなどを包んで食べるミアン・カム(เมี่ยงคำ)が食べ茶の習慣に代わっている[1]

ベトナム料理[編集]

屋台料理のカノム・ブアン・ユアンขนมเบื้องญวน)はベトナム料理バインセオが元になっている。

マレー料理[編集]

サテロティロティ・マタバ、ロッチョン(チェンドル)などのマレー料理の軽食は、主に屋台でよく見られる。タイ南部では米の代わりにロティをゲーンと食べることがある。

ポルトガル料理[編集]

フォーイ・トーンなど、タイ中部のを用いるデザートは、ポルトガル料理の影響が大きい。これはポルトガル人の血を引く女性宮廷菓子職人ターオ・トーンキープマーの貢献によるものとされる。

食事の作法[編集]

もち米の食事。ウドーンターニー県バーンドゥン郡英語版にて。

伝統的には食事は手を使って食べられていたが、今日では、フォークスプーンを使用するのが一般的である。通常はフォークを左手に、スプーンを右手に持ち、フォークでスプーンの上に食品を載せて食べる。供された料理を食べやすい大きさに切るときもスプーンを用いる。食べ終わったら、皿の上にそろえて置くのが行儀がよいとされる。の使用は汁麺を食べる際や、中華料理、日本料理のレストランで食事をする際に限られる。器を持ち上げて食事をするのはマナー違反とされる[2]

主食がもち米の場合は、今日においても手を使う。手で蒸したもち米を適量ちぎりとり、手のひらで握ってちょうど握り寿司のご飯のような円筒形の形状にととのえ、おかずにつけて食べる。この際、インドやイスラム世界とは異なり、右手だけで食べなければならない決まりはない。ただし古くは、バラモン文化の浸透した上流の階層において、タイでも左手は「不浄の手」として浸透している、と主張する人もあった。しかし、上流階級の住むタイ中部においては、食事の作法はフォークとスプーンに移行して、手を用いることはなくなった。もち米を食べる習慣がある東北地方や北部地方においては、現在においても、左手も右手と同様に使用して食事を楽しんでいる。

代表的なタイ料理[編集]

軽食・前菜[編集]

トーッマン・プラーとつけだれ
  • トーッマン・クン(ทอดมันกุ้ง):海老を使ったタイ風薩摩揚げ
  • トーッマン・プー(ทอดมันปู):蟹を使ったタイ風薩摩揚げ
  • トーッマン・プラー(ทอดมันปลา):魚肉(主に雷魚)を使ったタイ風薩摩揚げ
  • パッ・パッブン(パックブン・ファイデーン)(ผัดผักบุ้ง):ヨウサイ炒め。
  • パートンコー(ปาท่องโก๋):油条
  • ロティโรตี):マレー料理のロティ・チャナイが元で、生地を薄くのばし、バナナ、チョコレート、鶏卵、ジャムなどを包んで焼く。
  • ロティ・マタバ:鶏肉とジャガイモをカレー粉、タマネギ、ニンニク、鶏卵と煮込み、ロティに包んだ料理。
  • サラパオ(ซาลาเปา):タイ風焼包
  • カノム・ブアン・ユアン(ขนมเบื้องญวน):タイ風バインセオ。バンサオ(บั๊ญแส่ว)とも呼ばれる。

スープ・ゲーン[編集]

トムヤムクン
アヒルのゲーン・ペット

なお、ココナッツミルクを用いたゲーン(แกง)をタイカレーと呼ぶのは欧米や日本における通称であり、インド料理カレーとは香辛料や風味が異なる全く別の料理であり、タイ人はカレーとは呼ばないが、タイ国内の料理店の英語のメニューなどでも観光客にわかりやすいように curry と訳されている例がある。

サラダ、和え物[編集]

ソムタム
ヤム・ネーム(イーサーンのネームの和え物)

麺類[編集]

パッタイ
  • バミーบะหมี่):小麦粉中華麺の料理。汁麺のバミー・ナーム、炒め麺のバミー・ヘーンに分けられる。
  • クァイティオ(河粉)(ก๋วยเตี๋ยว):潮州の粿条が元になったライスヌードル。汁麺のクァイティオ・ナーム、炒め麺のクァイティオ・ヘーンの他、パッタイなど様々な麺料理に使われる。
カオソーイ


その昔タイ国王ラーマ5世が食欲が無いのを心配してハーブの効いたカレーのつけダレを考えてお出ししたところ国王が召し上がって、元気になられたので「ナムヤー」の名が付いたと言う。[3]

米料理[編集]

カオマンガイ
カーオ・パッ(炒飯)
  • カーオ・オプ・サパロッ(ข้าวอบสับปะรด):中をくりぬいたパイナップルを器にした炊き込みご飯
  • カオマンガイข้าวมันไก่):鶏を丸ごと茹で、そのスープでご飯を炊いた料理。茹でた鶏を切り身にして上に乗せて供する。
  • ジョーク(โจ๊ก):卵、生姜などで味付けした雑炊に似た粥。砕米から作られる。
  • カーオ・トム(ข้าวต้ม):煮込んで作る
  • カーオ・マン(ข้าวมัน):ココナッツミルクで炊いたご飯。
  • カーオ・モク・ガイข้าวหมกไก่):タイ風の鶏肉のビリヤニ
  • カーオ・ムー・デーン(ข้าวหมูแดง):叉焼のせご飯。
  • カーオ・パッข้าวผัด):炒飯。ナンプラーで塩味をつける。
    • カーオ・パッ・プー(ข้าวผัดปู):カニ入り炒飯。
    • カーオ・パッ・クン(ข้าวผัดกุ้ง):エビ入り炒飯。

肉・魚・鍋料理[編集]

プー・パッ・ポン・カリー
  • クン・オプ・ウンセン(กุ้งอบวุ้นเส้น):エビと春雨の土瓶蒸し。
  • タイスキสุกี้ยากี้):タイ式鍋料理しゃぶしゃぶや中華料理の火鍋のように肉や野菜を出汁で煮て、たれをつけて食べる。
  • チムチュムจิ้มจุ่ม):イーサーン式のハーブ鍋。土鍋にハーブや唐辛子を入れたスープを煮立て溶き卵を絡ませた肉や野菜や春雨などを煮て、ナムチムジェーオ(น้ำจิ้มแจ่ว)というタマリンドの酸味の効いた辛いたれなどをつけて食べる。
  • ムーガタหมูกระทะ):焼肉と鍋物が両方楽しめるジンギスカンのような鍋で食べる鍋料理。

中央の部分で肉を焼き周りの凹みの部分で野菜や春雨や豆腐やキノコなどを出汁で煮て、たれをつけて食べる。バンコクでは ブッフェ形式のムーガタ店も存在し、ムーガタ以外にもグリルシーフードやソムタムなど他のタイ料理なども楽しめる。 ラオスではシンダート(ຊີ້ນດາດ)と言う。

  • ネームแหนม):タイ風の生ソーセージ
  • プー・パッ・ポン・カリーปูผัดผงกะหรี่):ぶつ切りにしたカニをカレーソースで炒め、溶き卵で閉じた料理。
  • プラーサムロッ(ปลาสามรส):酸味のあるソースで和えた魚料理。サムロッとは「3つの味」と言う意味。
  • ホイラーイ・パッ・ナームプリッパオ(หอยลายผัดน้ำพริกเผา):スパイスの効いたアサリの炒め物。
ガイ・ヤーン

デザート[編集]

チェンマイのタニン市場で売られている菓子類。
  • サークー・ガティ(สาคูกะทิ):サゴヤシでん粉またはタピオカ・パール入りのココナッツミルク
  • フォーイ・トーン(ฝอยทอง):マツリカイランイランで香りをつけたシロップを熱し、アヒルの卵黄を細く糸状に垂らして火を通した、鶏卵素麺に似た菓子。
  • カオニャオ・マムアンข้าวเหนียวมะม่วง):甘いココナッツミルクで炊いたもち米にマンゴーを添えたデザート。
  • サンカヤー(สังขยา):ココナッツミルクを用いたカスタードプディング。カスタード液をカボチャに入れて蒸すとサンカヤー・ファクトン(สังขยาฟักทอง)となる。
  • ロッチョン・ナーム・ガティ(ลอดช่องน้ำกะทิ):チェンドル入りのココナッツミルク。

飲料[編集]

酒類[編集]

タイ風アイスティー

清涼飲料[編集]

その他[編集]

その他[編集]

脚注[編集]

  1. ^ David Thompson (2002). Thai Food. Ten Speed Press. p. 83. ISBN 1-58008-462-1 
  2. ^ 『タビトモ タイ』、2011年、JTBパブリッシング
  3. ^ https://thaidiidii.com/houkoku421.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]