布団

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布団
1950年代頃まで嫁入り道具としてセット販売されていた布団一式。夜着(掻巻)も含まれている

布団(ふとん)は日本で広く用いられる寝具のひとつ。ベッドの上に敷いて、睡眠時に用いる。ベッドと違い収納することができる。主に、人が上に横たわるための敷き布団(しきぶとん)と、人の上に被せる掛け布団(かけぶとん) に分けられる。

人が快適に寝ることを目的に用いる。就寝中に体温が下がり過ぎないように保温し、また、体重が体の一点に集中して痛みを生じたりすることがないようにする効果がある。このような効果を高めるために、袋状に縫製した(布団側、布団皮)の中に、綿ポリエステルなどの化学繊維羽毛羊毛などが詰められ、その詰め物(中綿)が型崩れしないように綴じ糸やキルティングなどで固定されている。

綿や化学繊維は掛け布団にも敷き布団にも用いられるが、羽毛は主に掛け布団に、羊毛は主に敷き布団に用いられる。同じ材質であれば一般的に厚みのある方が保温効果が高いが、厚すぎると、掛け布団の場合は重さで圧迫感を感じたり[注釈 1]、敷き布団の場合は柔らかくなりすぎて整形外科学的に不具合を生じる可能性もある。

元々蒲団と書かれ、でできた円い敷物に由来する[要出典]。この「団」は丸いという意味である。現在は軟らかい材質を用いるようになったため、布団と書かれるのが普通である。


英語で、Futonと表現する事があるが、主にこれは布団のことではなく、ソファーベッドのことを指す。

歴史[編集]

鎌倉時代の貴人の寝姿。畳の上に寝て着物をかけている。春日権現験記より
江戸時代中期の遊女の布団。敷布団は高級遊女のステイタスを示す三枚重ねの「三つ布団」、掛けものは厚い掻巻。鈴木春信

現代のような長方形の綿入り布団の形が定まったのは明治以降である。

が生まれた奈良時代から室町時代までは、身分の高い者でも、畳の上に横たわり、昼間に着ていた着物を掛けて寝ていた。 戦国時代木綿栽培が広がり、綿が作られるようになると、防寒用の衣服として着物に綿を入れた形のものが現れ、それが「夜着」(掻巻)と呼ばれる就寝用の掛けものに転じる[1]。また、江戸時代中期以降には綿入りの敷き布団も使われ始めるが、いずれもまだ富裕層のものであり、庶民はで作られた(むしろ)の上に寝て着物をかけたり、また、藁をそのまま使ったり、和紙で包んで「紙衾」に仕立てたりして寝ていた。

掛けものが、がついた形の「夜着」から現代のような長方形の掛け布団に代わるのは、幕末になってからである。

明治中期以降、次第に綿布団が一般庶民にも普及し始める。西川など既成の寝具を売る店も現れるが、昭和30年代頃までは家庭で作るものであった。また、地方では、この頃まで藁布団も用いられていた[2]

現代における使用法[編集]

日本では、敷き布団はの上に敷いて用いるのが伝統であったが、現代ではベッドの上に直接敷いたり、マットレスを敷いて、その上にマットレストッパー (mattress topper) の代わりに敷き布団を敷く場合もある。韓国中国東北部ではオンドル火炕のような床暖房が用いられるので、に布団を敷くのが伝統的であるが、ベッドを使う場合もある。

寒い季節には、掛け布団をかける前に「肌布団(はだぶとん)」という直接肌にかける軽い布団を併用する場合もある。逆に、暑い季節は厚いものでは暑すぎで寝苦しくなる事が多いので、暑さを和らげるために薄い掛け布団を使うか、代わりにタオルケットを用いることがある。また、中間期では、通常の掛け布団よりも少し薄手の「合い掛け布団(あいがけぶとん)」を用いることがある。

通常、布団は、そのまま用いずに、薄い布(木綿ポリエステルなど)でできた「布団カバー」で包んで使われることが多い。布団カバーは、定期的な洗濯を容易にし、清潔を保つためのものである。宿泊施設などでは、カバーの代わりに、もしくはカバーの上にさらにシーツを用いることが多い。この場合、敷布団にシーツをかけ、毛布を一枚から数枚のせて最後に掛け布団をかぶせる。合宿などで用いる研修所では、衛生のため、シーツを毛布の下にも敷き、二枚のシーツの間に挟まれるようにして寝ることを推奨される。ユースホステルでは袋状のシーツに入ってから布団に入るように規定されている。

手入れと保管[編集]

干された布団

畳に敷いた布団は、毎日、就寝の前に収納場所から出して敷き広げ、起床ののち折り畳んで収納することが慣習化されている。これを「布団の上げ下ろし」という。上げ下ろしすることで、部屋を広く使うことができると同時に、部屋にほこりが溜まることを防ぐことができる。現代では布団が収納されるのは一般に押入れの中段であるが、これは、昭和に綿入り布団が広まった際、それまでのように畳んで床に置いておくだけでは湿気やカビの発生などが問題になったためである。

寝ついていた病人が回復し、病床を離れられるようになって布団を上げることを「床上げ」という。また、布団を畳まずに敷いたままであることを、「万年床」(まんねんどこ)という。万年床は不精で不潔なこととされており、形態としては万年床にほかならないベッドの導入の際などに高齢者が抵抗を示す場合がある。

屋根での布団干しの光景(木曽駒ヶ岳九合目の玉ノ窪山荘

また、布団には夜間、睡眠中に人間から排出されるのために水分がかなりたまる。そのため、時々、天気の良い日に戸外に干す必要があり、これを「布団干し」(ふとんぼし)と呼ぶ。このとき、布団が物干し竿から風などで落ちないように「布団ばさみ」を使って抑えておく。ただし、集合住宅では手摺を利用して布団などを干すことを禁じているところが多くなっている(落下による危険防止のため、景観を保つためなど)。このように、現代では、部屋の日照や生活時間の変化、景観に関する条例などから布団を干すことができないことも多く、こういった場合は、代わりに「布団乾燥機」を用いて湿度を減らすことが行われている(後述するダニの殺虫にも効果的とされている)。

布団は、長く使用していると、ダニが発生することが多い。ダニの糞や死骸はアレルギー症状を引き起こす代表的なアレルゲンであり、アトピー喘息などを持つ人にとっては深刻な問題である。除去方法としては、布団に掃除機をかけ、洗濯機で丸洗いすることが効果的とされている。また、よく晴れた日に黒いシーツをかけて熱を集めながら布団干しすることも効果的である。アレルギーを防止するため、最近では、防ダニ加工や、抗菌加工が施されたアレルギー対策布団も販売されている。アレルギー対策布団は、詰め物にポリエステル、布にポリプロピレンなどが使われる。

布団干しの際には「布団叩き」が用いられてきたが、布団を叩くことは繊維を傷め、ダニを殺す成果もない(布団内で叩いた箇所の反対側に逃げるのみ)ことから、近年では推奨されていない。埃やダニを除去するには、手でやわらかく埃をはたき、布団の上から直接掃除機をかけるのが効果的であること、また、掃除機をかけた場合に埃とダニの量が最も減るのはもめん綿とポリエステル綿であることがNHKの番組で紹介され話題になった[3]

近年では、布団専用の掃除機や乾燥機が発売[4]されており、より簡単に手入れをすることが可能になった。

布団を保管する際や、引越の際には、「布団袋」(ふとんぶくろ)という布団一式を詰められる丈夫な布製の大きな袋が用いられたが、現代ではあまりみられない。

季節に合わない布団や来客用の布団を保管するためには多くのスペースを必要とするが、十分な空間がない場合、掃除機で布団内部の空気を吸い出してコンパクトにする「布団圧縮袋」(ふとんあっしゅくぶくろ)が用いられる場合もある。

種類[編集]

  • 大きさによって、一人用の「シングル」と二人用の「ダブル」、それらの中間の「スモールダブル」などに分類される。寝具ではなく、座る際に用いる座布団(ざぶとん)も布団の一種とされる場合がある[注釈 2]
  • こたつにかけて使用されるものは、寝具ではないが、同じような形状であるため「こたつ布団」と呼ばれる。
  • 掛け布団は中に詰めてある中綿の種類により、保温性・保湿性が大きく異なる。
  • 布団の生産地表示は、あくまでも最終工程をどこで行ったかで表示される。また、どこからが最終工程かの規定はないため、製造メーカーが最終工程の判断を各々独自に規定している。例えば、羽毛布団の材料の仕分けと洗浄を中国で行い、詰め込みと最終縫製を日本で行った場合、その商品は日本製と表示される。

綿布団[編集]

  • 一般的に真綿木綿綿を重量比50%以上を中綿に使用しているものを綿布団と呼ぶ。

羽毛布団[編集]

  • 水鳥ダウンを中綿に使用している比率が50 %以上のものを羽毛布団と呼ぶ。水鳥の胸元だけから採れ、非常に軽くて保湿性・保温性に富んだ材質であるため、高級羽毛布団として販売されていることが多い。いわゆるダウンケットは夏用の薄手の掛け羽毛布団である。
  • 水鳥の種類は、主にグース(ガチョウ)とダック(アヒル)に分けられる。グースの方が高級品である。
  • また、90 %以上の表示は羽毛の仕分けを機械で選別するのに加えて手作業で仕分け(ハンドピック)をしないと表示できないが、少しでも手で選別すれば90 %以上の表示になってしまう[要出典]

羽根布団[編集]

  • 羽毛よりも芯が固い水鳥の羽根(フェザー)を中綿としているものを羽根布団と呼ぶ。この羽根布団は、一般的に羽毛布団よりも保温性でかなり劣る。しかしながら、羽根は羽毛よりも大量に採取可能なため、流通する布団の中でも、羽根布団に限っては低価格化が進んでいる。
  • 最近では、この羽根布団をセットにした格安の布団セットが、布団の通販で多く見かけるようになった。

羊毛布団[編集]

  • 羊毛を中綿に重量比で50%以上用いた布団を羊毛布団と呼ぶ。羊毛布団は、羽毛布団や綿布団のようなふわふわ感(柔軟性)には欠けるが、弾力性・保温性・放湿性においては大変優れており、掛け布団よりも敷き布団に適している。

化繊布団[編集]

抗アレルギー布団[編集]

  • アレルギーを防止するため、抗アレルゲン、抗ダニ、抗菌加工が施された布団。詰め物にはポリエステル、側布にはポリプロピレンなどが使われる。100 %化学繊維なので、低価格で洗濯が可能である。保温性が高く、軽量、洗濯が容易、安価などの利点を持つ一方で、繊維自体の吸湿性が良くないため、羊毛毛布との重ね合わせによっては摩擦帯電がおきやすいといった短所も持つ。ポリエステル布団にはアクリル繊維を用いたアクリル織毛布などを重ねると静電気がおきにくい。

形状記憶敷き布団[編集]

  • 低反発なポリウレタンを素材とし、主に敷き布団に使われる。肩や腰にかかる負担が少ないとされる。中の素材は洗えない。

エアーマットレス[編集]

  • エアーベッドとも呼ばれ、浮き袋のように空気を入れて敷き布団として使用する。一般的にはビニール製のものが用いられる。簡易マットレスとして使われることも多い。

掛け布団サイズ[編集]

掛け布団のサイズは、一般的には布団の作られ方や使用される生地のサイズによって異なるため、厳密にサイズが決まっているわけではなく5〜10cm前後する。

  • シングル (135cmx200cm)
  • ダブル (200cmx200cm)
  • キングサイズ(225cmx220cm)
  • スーパーキングサイズ (260cmx220cm)

日本産業規格(JIS L 4403:2000)[6]では、掛け布団のサイズとして次の10種類が定められている。

JIS L 4403:2000に定められた掛け布団のサイズ
S M1 M2 L1 L2 SW W B1 B2 Su
幅 cm 135 150 160 150 160 170 180 88 135 120
長さ cm 195 195 195 210 210 210 210 120 160 160

健康への影響[編集]

羽毛から発生する微粉塵を長期間吸い込んだ場合、羽毛に対するアレルギーが生じ過敏性肺炎間質性肺炎を発症することがある[7][8]。しかし、自身が鳥関連過敏性の体質であることに気がつかないまま重症化し、「特発性間質性肺炎」や「特発性肺線維症」と診断されるが有効な治療が行えず慢性過敏性肺炎に重症化する例が報告されている[9][10]

その他[編集]

  • 西洋のベッドが壁沿いに置かれるのに対し、伝統的な和室における布団は、部屋の中央に敷かれる。この理由に関しては、『日本武術神妙記』(中里介山 角川ソフィア文庫 2016年)において、忍者の説明として、賊がどこから侵入したとしても一定の間合いがあり、対応ができるためと説明されている。また、伝統的な和室は土壁であったため、壁越しにで襲われる恐れもあったことから、壁から離れた中央に敷かれていたという。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 近年では、一定の圧迫感(圧迫刺激)によって安心感を得る感覚過敏の子どもなどのために、ガラスペレットなどで敢えて重量を増した(加重毛布英語版)も販売されており、一般向けの安眠グッズにもなっている。
  2. ^ 和裁においては、布団をはじめ、座布団や綿入れ半纏など、綿入りのもの全般を仕立てる技術も必須とされていた。

出典[編集]

  1. ^ ふとんの歴史、布団の歴史、昔のふとん”. 渡辺寝具. 2020年12月24日閲覧。
  2. ^ 寝具の歴史”. ねむりくらし研究所 (2015年1月25日). 2020年12月23日閲覧。
  3. ^ NHKあさイチ』2011年10月18日放送回ほか、『名作ホスピタル』など複数の番組で紹介
  4. ^ 布団乾燥機のおすすめ人気比較ランキング15選【ダニ退治には効果的?】”. タスクルヒカク | 暮らしのおすすめサービス比較サイト. 2019年12月26日閲覧。
  5. ^ 新潟県立植物園 「NHK新潟ラジオセンター「朝の随想」セレクション ゼンマイ綿と栃尾手まり(11月17日放送)
  6. ^ JIS L 4403:2000日本産業標準調査会経済産業省
  7. ^ 過敏性肺炎 MSDマニュアル プロフェッショナル版
  8. ^ 稲瀬直彦、過敏性肺炎の最近の動向 日本内科学会雑誌 105巻 (2016) 6号 p.991-996, doi:10.2169/naika.105.991
  9. ^ その難治性肺炎、ダウンジャケットが原因かも 日経メディカルオンライン 記事:2016年10月21日
  10. ^ 長坂行雄、「咳嗽の診療」 呼吸と循環 64巻 5号, p.479-484, 2016/5/15, doi:10.11477/mf.1404205957

関連項目[編集]